以前、研修でこんなワークをした時のこと。
同期で一番仲の良かった同僚が、あなたよりも先に役職につきました。「おめでとう」とは言ったものの、少し複雑な心境だったあなた。どんな思いや感情があったのでしょう。
すると、「別に何も思いません。役職がついたのが自分でなくて良かった、くらいかな」という人がいました。「役職につきたいとは微塵も思わない」のだと。確認してみると、そういう人が他に何人かいました。
日本生命が2022年6月、20代の男女を対象に『出世欲』に関するアンケート調査を実施したところ、出世したくない人が約77%という結果が出ました。その理由は、「責任のある仕事をしたくない」「プライベートを大事にしたい」の2つに回答が集中していたそうです。
実際に研修で「出世したくない」という若者の生の声を聞いた時には、私はちょっとしたショックを受けました。
以前、仕事で結果を出し昇進昇給することが、誰もが当たり前に目指す道で、それこそが『成功』の一つの形だと信じられていた時代が、確かにありました。けれども、それはすでに過去のもので、それぞれが望む未来は無数にあり、『出世』はその中の一つに過ぎません。
では、なぜ若者の出世欲が低下していったのでしょうか。
一つには、『大人の言うことを聞かせる』という環境で育った、ということが考えられるでしょう。
失敗して怒られないよう正解が欲しい。『周りと同じ』に安心する。自分だけ違うことをして目立ちたくない。やっかまれたりするのは面倒だから人前で褒められたくない。責任ある立場で失敗して怒られるのは怖い。言われたことはやるけれど、部下に指示なんてできない。幹部と部下の間で苦労している上司のようになりたくはない。それならば、今の立場のまま、気楽に仕事している方がいい。
そんなところかもしれません。もしそうだとしたら、若者がダメなのではなく、それは環境に起因しています。そして、そんな環境を作っているのは、過去からの流れを引き継ぐ私たち大人です。
大切なのは、出世を望まない若者を、「やる気がない」と判断しないこと。「誰もが出世することを望み目標としている」という思い込みを捨てること。そして、彼らが何かをチャレンジしたいと少しでも思ったなら、その気持ちを大切にしながら見守ること。とことん待つこと。仕事の現場ではそんな悠長なことを言っていられないかもしれませんが、それでも「育てよう」と思うのであれば、急がば回れ、です。
そうやって彼らが安心して成長できる環境を作ることが、長い目で見れば、会社の成長に繋がるのだと思います。